How to BERSERK 03

シーカーズベットの欠点

プロ集団に所属することになった僕は、シーカーズベットを使うことで「ほぼ無敗」になりました。

ほぼ、という言い方をするのは、前回少し触れましたが負けるゲームが存在する」ってことなんです。
まずはそれを説明しましょう。例えば、
プレイヤー=1枚目「K」2枚目「8」
バンカー=1枚目「4」2枚目「?」
という状況です。
これは、バンカーの2枚目に何が出るのか分からないということです。
さて、この状況なら皆さんはどちらにベットしますか?言うまでもなく、ナチュラル8が確定してるプレイヤーに賭けると思います。
もちろん僕らもそうでした。ここのプレイヤーに大きく賭けます。
ところが、この「?」が「5」だった場合、負けてしまいます。
これが、僕らが唯一負ける時になるわけです。
シーカーズベットは完全に全てのカードが見えるわけではなく、たまにこうやって見えざるカードが存在していることによって「負けゲーム」が出てくるのです。しかし、これはこれで僕らにはプラスに働くこともありました。
例えばカジノ側の視点で考えてみましょう。
僕らは毎日のように店に現れ、明らかにおかしなベット(ミニマム→ミニマム→ミニマム→ミニマム→MAX→ミニマム→ミニマム→ミニマム→ミニマム…)をします。
このMAXの時だけ100発100中で勝ってしまうと、カジノ側は僕らを必ず出禁にしてきます。
裏カジノでは、ある日突然入口のオートロックが開かなくなる、または、インターホンを押しても誰も応答しなくなっちゃいますw
ところが、僕らは何回かに1回、この負けゲームが存在しますから、カジノはそれを理由に出入禁止にすることができなかったのです。
そういう意味では、負けてラッキーとも言えました。僕らが一番困るのはお金を稼げる場所が無くなることでしたから。

 

プロ集団のルール

正直、シーカーズベットを使えばいくらでも勝てました。
どちらが勝つか分かっているわけですから、自分が勝ちたい額をそちらにベットすればいいだけですので。
しかし、僕らにはルールが存在していたのです。
これは、会長ケイが作ったルールなのですが、
「1日1軒あたり勝つ金額は1人5万円まで」
というものでした。
カジノは勝ち続ける客(プロ)を嫌いますので、このライン以上勝つと、僕らは理由もなく出入禁止になってしまうからです。
このルールを守らない者は、ケイから破門にされてしまいます。(ちなみに破門になると恐い人に追いかけ回されますw)
バカラ屋に来ているお客さんはほとんど顔馴染みばかりですので、個人が内緒でボロ勝ちなんかしたら、BARを経営するケイの耳にはすぐに入ります。
なので、もし5万円を超えてもっと勝ちたい場合は、バカラ屋を「はしご」する必要がありました。
1軒あたり5万円なので、3軒はしごすれば15万円勝てます。
若い僕らにはこれでも十分な額でしたが。

 

もうひとつルールがありました。
「お店の常連やディーラーと仲良くしろ」
というものです。
要は揉め事を起こすなよ、ということですね。
ディーラーや黒服と揉めちゃうとあっさり出入禁止になりますから、やはりこれは当然のことと言えます。
そして、お店に来る常連客の中には「くじら」と呼ばれる大口のお客さんもいるのですが、このくじらと仲良くすることによって、店からつまみ出される可能性が格段に減るのです。
くじらのワンベットは10~100万円。僕らが1日で勝つ金額よりかなり大きいです。
僕らをつまみ出したことによってくじらが来てくれなくなったら、それこそ店は大損害になっちゃいますからw

 

あとは、シーカーズベットの内容を人に言わないとか、そんな当たり前のようなルールぐらいです。
とにかく僕らはそういうルールに従って、毎日勝ち続けてました。

 

ユウシとの出会い

僕の1日の行動パターンはほぼ同じでした。
昼頃起床→朝昼兼用メシ→16時集合→バカラ屋→バカラ屋→(バカラ屋)→夜メシ→キャバクラ(20~翌3時頃まで)→帰宅
ほぼこの流れです。
バカラ屋は気分で選んでました。近くに7軒ぐらい存在していたので、イベント日の店を選んだり、友人が遊んでいると聞き付けてその店に行ったりと、まあ適当です。

 

ある日、いつものバカラ屋に行くと、その日は閑散としていて、遊んでいる客は1人だけという状況でした。
そのたった1人の客の顔も見たことがありました。しかし、これまで一度も話しかけたことはありません。
歳はH氏と同じぐらい(24~25)。背はそんなに高くないですがまるでラガーマンのようなゴツい体格、茶色の短髪、茶色の瞳、服装はジーパンにTシャツ。ちょっとゴツい不良という印象です。
僕らが同じテーブルに着席すると、彼は僕らの顔を見て軽く会釈しました。どうやらあちらも「こいつら見たことあるな…」と思っていたのでしょう。
そこで、H氏が彼に話しかけます。
「初めまして。いつも居はりますね。今日は(バカラの)調子どうですか?」
ラガーマンがそれに答えます。
「全然ダメですわ。ディーラーが強すぎて、もう150(万)ぐらいやられてます」
150万!たしかに彼はそう言いました。
そうなんです。この男、若いのに結構なハイローラーで、いつも100万円両替でミニマム5万円ぐらいのベットで遊んでいます。
そういえば、たまに200~300万円ぐらいチップを持ってるのを見かけたことがあります。
男の名は勇志(ユウシ)。じつは、これから先の僕の人生を大きく変えるきっかけを作る人物なのですが、それについてはまた後ほど。

 

ユウシがどちらでもなく僕らに話しかけてきました。
「いつもココイチ勝ってますよね。すごいなぁって思って見てたんですよ」
そりゃ当然ですよ!
と言えるわけもないので、
「いやもうただのヤケクソですよ。ダラダラやってても仕方ないので一発いってるだけなんです。早く終わらせて飲みに行きたいですからねw」
と、ごまかしておきました。

 

卓内で会話をしてるうちに、歳の近い僕らは打ち解けていきました。
ユウシは僕らの勝つカラクリは全く分かっていませんが、なんとなく「こいつらが高額ベットした時は半目に張らないでおこう」と思っていたと思います。
そのシューターを消化した時、ユウシは収支をチャラぐらいまで戻してました。
12目ぐらいのバンカーツラが下りて、張り腰のある彼はそこで一気にベットアップで連勝し、ついには勝ちきったのです。
僕らもその日ここが3軒目だったので、ちょうど利確してメシを食いに行く頃合い。
依然として客は僕らだけでしたので、次のカードシャッフルに入ろうとするディーラーを制止し、僕ら三人は店を出ることにしました。

 

店を出ると、
「いやぁ良かったですわ。ベルさんらが来た途端にディーラー弱体化しよったっすからw」
「良かったらメシでも行きませんか?お陰でチャラに戻って10万ぐらい浮いたんで肉でも奢りますよ」
とユウシが誘ってきます。
僕ら二人も「なぜ彼はこんなに若いのに金持ってるんだろ?」と気になっていたのもあって、そのままの流れで三人で飲みに行くことになりました。
そこで知ったのですが、彼は地元のかなり大きな暴走族の初代ヘッドで、今はその時のメンバーと「土建(土木建築)屋」をやってるのだそうです。さらにヤバいのは「野球賭博の中継」もやっていて、大体、日あたり30万円ぐらい稼ぐツワモノでした。
ところが、すぐ熱くなる性格が災いし、バカラでは連戦連敗。稼いでも稼いでも全てバカラに溶かしてしまうのだそうです。
それにしても日当30万円…。
やはり上には上がいることを思い知りました。
この時点でのユウシの印象は、気のいい恐い兄ちゃん、といったところです。

 

H氏vsベル

毎日同じメンバーと同じような事を繰り返し、ついには僕の手持ち資金は400万円を超えていました。
この時の金の管理は杜撰なものです。
とりあえず昼に家を出る時に、財布に100万円、万が一パンクした時のためにもう100万円を車のダッシュボードの中、残りは小銭ごと家にある何かの菓子箱の中にガサッと放り込んでいました。

 

ある日、いつものように、僕とH氏は待ち合わせの時間に待ち合わせの場所で会いました。
そして、いつものバカラ屋に行き、いつもの黒服に挨拶、いつものテーブルのいつもの席に座り、もうゲームとしては完全に飽きているバカラを淡々と消化し始めました。
僕とH氏は隣同士で座りますが、シーカーズベットは基本的に一人で行います。今回は一番端に座った僕がメインとなります。
ですが、メインではないもう一人にはまた別の仕事があって、メインシーカーがミスってないかをチェックするために、また別のことをします。
そして、次はプレイヤー(バンカー)だね、と二人の意見が一致して初めて大きく賭けることができるのです。
これまで二人は一度も意見が食い違うことはなかったのですが、その日、初めて意見が食い違いました。
勝負ベットのゲームが近づき、いよいよ次!という時のことです。

 

「スペードQ→ハートK→ダイヤ4→ダイヤ6。6条件から次8でバンカー勝ちでいい?」
と、H氏にしか聞こえないような小声で僕は聞きました。
僕が言ったのはカードが出てくる順番です。
カードはPBPBの順に配られますから、
プレイヤー=1枚目「Q」2枚目「4」
バンカー=1枚目「K」2枚目「6」
バンカー6条件発動でプレイヤーの3枚目が「8」
つまり、2-6でバンカー勝利!こういう意味です。

プレイヤー      

バンカー       

次に出てくるカード 

 

しかし、H氏は眉間にシワを寄せながらこう答えました。
「違いますよ。Qの前に1枚噛んでますから、4条件でプレイヤー有利ハンドです」
僕がスペードのQから始まると言ったことに対し、H氏はQの前にもう1枚「?」が存在していると言うのです。
要約するとこうなります。
プレイヤー=1枚目「?」2枚目「K」
バンカー=1枚目「Q」2枚目「4」
次のカード「6」その次が「8」

プレイヤー          

バンカー           

次に出てくるカード   次の次カード
つまり「?」が8or9ならナチュラルでプレイヤーの勝利
6or7ならプレイヤーはスタンディング。そこからバンカーの3枚目が6なので、メイク0でプレイヤーの勝利
また、1,2,3,10,J,Q,Kならバンカーの4条件が発動するが、プレイヤーは3枚目で6を引き、条件決まらずでバンカーの3枚目が8。メイク2になってこれもプレイヤーの勝利
そして「?」が4or5の時のみプレイヤーメイク0or1となり、バンカーが勝利となります。
すなわち、13分の11でプレイヤーが勝つ(この場合タイになる確率は0%)ということです。

 

さて困りました。一応僕らの中では、二人の意見が違った場合は賭けないでおこう、というように軽く話してましたが、べつにそれはルールでも約束でもなく、酒の席で軽く交わした会話レベル。そんな話などH氏が覚えてないかもしれないし、そもそもここで賭けても賭けなくても、それは個人の自由なわけです。
僕の読みでは、バンカー必勝
H氏の読みでは、プレイヤー勝率85%
まるで正反対の結果になります。

 

しかし、僕はメインシーカーなわけですし、これには自信がありました。
万が一間違ってても、プレイヤーは必勝ではありません。
50%でバンカー必勝
50%でプレイヤー勝率85%
それなら、バンカーに賭けるべきではないのか?
僕は咄嗟にそう思いました。
しかし、そう長く迷っているわけにもいきません。ゲームは常に進んでいます。
ベッティングタイムが終了に近付き、ディーラーがベットタイム終了を告知する呼び鈴に手を伸ばしたその刹那、慌てた僕とH氏はほぼ同時にベットしていました。

 

バンカーにオールインする僕

プレイヤーにオールインするH氏

 

えっ!?この瞬間、二人はきっと同じ表情をしていたと思います。
そして、これを見たディーラーがすかさず終了を告知しました。

 

「ノーモアベット!」

 

 

運命のカード

ディーラーが終了の合図をした以上、僕らはもうベットを動かすことも取り下げることもできません。
勝負の行方はたった1枚、最初に開くプレイヤーのカードにあります。
プレイヤー、バンカー、プレイヤー、バンカー、とカードが裏返しにテーブルに並べられていきます。
プレイヤーのベットオーナーであるH氏と、バンカーのベットオーナーである僕には、フェイスカード以外の1枚(つまり2枚目)が絞り(スクイーズ)するために渡されることになるわけですが、僕らはここに並べられたカードの半分以上のカードを把握しています。なのでそもそも絞りなんて必要ありません。
問題は、プレイヤー側に最初に配られた1枚目のカードが何かこの1点のみでしかないのですから。
裏返しにされた4枚のカードが並んだ瞬間、H氏がすかさずこう言いました。
「プレイヤーはオープンしてください」
と。
まあ、いつものことと言えばいつものことなのですが、H氏は絞りを拒否しました。
一瞬の間を置き、ディーラーが僕に聞いてきます。
「バンカーどうしますか?」
と。
カードは4枚ともまだ伏せられたままです。
僕は、言いました。
「バンカーの2枚目のカードだけください」

 

僕の予定では、バンカーの2枚目はダイヤの6でなければなりません。
ていうか、ダイヤの6を確信していました。
ただ、なんとなく、僕を信じず反目に置いたH氏に少しイラっとしてたのだと思います。
席は隣。僕が絞れば隣のH氏にも丸見えになります。
この時点で、ゲームはいつもと違う状況になっていました。通常は、4枚のうち2枚のカードが開かれていて、残り1枚ずつをそれぞれのベットオーナーが絞っているという光景になりますが、今回はプレイヤー側のベットオーナー(H氏)が絞りを拒否し、かつ僕が2枚目だけを絞るなどと言ったものですから、テーブルには3枚の伏せカードが並ぶ異様な光景となっていました

 

僕は、ゆっくりと縦からカードを絞ります。
ダイヤの尖った部分が2つ見えました。


「足あり!」
白々しく僕は声を出しました。
そして、続けてカードを横に向けます。
スリーサイドなのは分かっています。
少しずつ少しずつカードをめくりながら、隣のH氏が絶句するのを想像していました。
メインシーカーを裏切るなんて、とんでもない。
僕を信じなかったことを後悔するといい。
そう思いながら、カードを横から開いていきました。

!?

「えっ…」

そこには、僕の予定と違うものが存在していました。
つ、ツーサイド?

 

一瞬の戸惑いの後、状況はすぐに飲み込めました。
カードの並びは、スペードQ→ハートK→ダイヤ4→ダイヤ6
僕が絞ったものはまさに、この「ダイヤの4」でした。
つまりこれはどういうことか?
そうなのです。存在していたのです。
Qの前に1枚…
H氏はその1枚の誤差を、サブに座りながらも、ちゃんと読み間違えなかったのです。

 

僕が力なくダイヤの4を表返した時、
「もういいですか?」
「残り全部オープンしてください」
と、逆に少し怒ったような強い口調になったH氏がディーラーにそう告げました。
これを受けてディーラー、並べられた全てのカードを開きます。
僕はもうカードがよく見えてませんでした。
あとは出来レースなのですから。

「プレイヤーメイク5、バンカーメイク4」
「4条件です。ワンモアプレイヤーカード、5からです」
いわゆる逆条件。4条件でプレイヤー5というのは、バンカーの条件発動で唯一バンカーが不利になる形。絵札とAは即負け、2,3,4でも強ハンドとなるいわばプレイヤーの必勝形とも言えます。

 

しかし、今回は状況が違いました。

皆様はもうお分かりでしょうか?

そう。次のプレイヤーのカードは、僕がさっき絞り損ねたダイヤの6」なのです。
「あっ!」
このとき僕は喜びではなく、背筋が凍りつくような感覚を覚えました。

 

僕が状況を飲み込むより少し早く、H氏は席を立ち上がりながら言いました。
「プレイヤーオープンでいいです」
そしてそのまま、バンカーの3枚目を見ることもなく、また僕に声も掛けず、彼は足早に去っていきました。
「バンカーもオープンで!」
僕は強い口調でディーラーを急かしました。
6枚のカードがディーラーによって開かれ、これでカードは出揃いました。
「バンカーメイク4。1-4でバンカーウィンです」
ナイスキャッチ!と渡されるチップを興味なさそうに回収し、僕もそのまま席を立ち、キャッシャーへと走りました。
しかしここでまた問題発生。
僕はワンシューターもやってません。
つまり、換金してもらうことができません。

 

H氏はすでに店を出ていたので、僕は焦ってました。
「後で続きやりますんで、チップ預かっといてください!」
とキャッシャーにチップを預け、僕も慌てて店を出ることを選択。
オートロックが開かれ、1Fで止まっているエレベーターを呼び、ビルから出た繁華街。

僕は、完全にH氏を見失っていました。

 

 

(つづく)

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